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​硝

根本幸雄

根本硝子工芸 創始者

備忘録

「切子」は1834年、日本が開国してまもなく西洋から輸入されたガラス製品に切込みを入れる技術のことを指す。ガラス製品加工を生業としていた加賀屋久兵衛が起源と言われ、江戸時代に多くの職人の手を辿り、200年近くの年月を経てに現代に至る。宝石の様に愛される切子の魅力の裏には、19世紀に戦争や多くの自然災害から家業を守り通し、そして産業改革を経て尚、新たな時代でも輝き増さんばかりの名作と、未来へと繋げる作家を輩出し続ける根本硝子工芸一家の姿がある。工芸品作家の頂にある「現代の名工」を達成し、代々とその血筋を繋げるストーリーはここから始まる。

MEMORANDUM

戦後の東京

歩み

PASSAGE

初代根本幸雄は1936年に生まれ、早くも8歳にして東京大空襲を経験する。13歳より加賀屋久兵衛の弟子田村徳蔵に師事、共に時代を拓く工房の先輩らと切磋琢磨し、切子職人の道を歩みはじめる。

 

僅かな支給品しか与えられなかった戦後、過酷だった生活環境に屈することなく、才能を早くから認められ「菊繋ぎ文様」など高度なカッティング技術を得意とした。23歳に根本硝子工芸を立ち上げ、産業革命時代に江戸の伝統を繋げた数少ない工房の一つとして歳月を重ねていった。

八面相 色被せ切子水差し

伝統と革新

水力や人力-不安定な動力に頼った生産を見直し、国内で初めての電動研ぎ機を考案し、導入したのも他ならぬ根本幸雄氏である。そして時には失われた文化ー薩摩切子の復刻研究にも知見・人手を貸し出すことで、日本全土における切子文化の伝承・進化に幅広く貢献する。

 

また1996年、韓国との首脳会談時のために切子を制作し、国交の親睦を深めることに一役買うなど、幸雄氏は日本を代表する藝術家・切子職人として、名誉ある黄綬褒章を始め、数々受賞歴を受け晩年まで製作を続けた。
 

CULTURE & INNOVATION

日韓首脳会談時贈られた

幸雄氏作デキャンタとグラス

表現

EXPRESSION

伝統工芸として切子を根付かせようと尽力する幸雄氏は、同時に作品の美も追求し続けた。 匠の経験から色や素材の可能性を極限にまで引き出し、和の心・誇りを謳い、幾千ものカットはクリスタルへ生を宿す。傑作「憂い」では作品に丸3年かけ、常人では到達不能なディテール、造形美への執念を見る者へ訴えかける。

 

根本幸雄氏の繊細かつ大胆なカットを宿した妥協なき大作らは見る人を魅了し、切子文化に、携わる人々に秘められた可能性を光輝燦然に現した。

​憂い

SIGNATURE

‐憂い‐

無色切子水差し

9月21日東京江東区に生まれる

昭和11年

13才より弟子入り 田村徳蔵に師事

昭和24年

根本硝子工芸設立

昭和34年

伝統工芸新作展入選(以後入選17回)伝統工芸展入選(以後入選13回)

昭和55年

伝統工芸新作展 日本工芸会東京支部賞受賞

昭和62年

コーニング美術館 NewGlassReview9選定 東京都知事より伝統工芸士に認定

昭和63年

江戸切子新作展 最優秀区長賞受賞、伝統工芸七部会展 文化庁長官賞受賞

平成元年

新作展鑑査委員、伝統工芸七部会展 日本工芸会賞受賞、江戸切子新作展最良賞・特別デザイン賞受賞、三越日本橋本店にて個展(以後4回)

平成3年

江戸切子新作展 最良賞・特別デザイン賞受賞、東京都伝統工芸士その人と作品展 東京都知事賞受賞

平成8年

伝統工芸七部会鑑審査員

平成9年

伝統工芸七部会展 文化庁長官賞受賞 江戸切子新作展にて東京カットグラス工業協同組合理事長賞受賞

平成10年

黄綬褒章を受章

平成21年

略歴

根本 幸雄

『東のはてに黄金の国あり』  根本硝子工芸